lancelot2017’s blog

柳生十兵衛の伝書「月之抄」を中心に上げていきます。

月之抄 敵味方両三寸のこと

 老父言う、敵の太刀先三寸を、味方の三寸と言う。敵の拳三寸前を敵の三寸と言う。仕掛けは味方の三寸へ付け、打つときは敵の三寸を打つべし。当流には深く勝つことを嫌うがゆえなり。浅く勝ちて、この目をよくせんためなり。

 

 亡父の録に、拍子乗るときは、鎺(はばき)元三寸を目付けて打つなり。拍子を取る時は、切っ先三寸、十文字と掛け取るなり。それを味方というと書す。

 また言う、敵の三寸、味方の三寸を我が太刀先三寸にて打つ時も、付ける時も、深からず付けもせよ、切りもせよとも書す。

 

(注) 新陰流は浅く勝つことに特徴がある。これは己の身を安全に保つことに加え、遠心力が最も強くかかる切っ先三寸で敵を切るためである。物理的にも理に適った戦略であると言えよう。

月之抄 色に就き色に随うこと 

 父言う、待にして、打ち出す働きを見て、構えている者にこの心持ち専なり。

 先に三寸に切りかけ、色々の仕掛け、切りかけを色と言い、三寸にて敵の色就かざる者には、拳のあたりへ深く色をかけて見るべし。色に就かずということなし。就けばその色に随(したが)いて勝つなり。

 

 右へ勝てば左へ仕掛け、左へ仕掛け右を勝ち、下を仕掛けて上を勝ち、上から仕掛けて下を勝つ。色々のはたらきを仕掛けて、それに随いて勝を言う。表裏の基なり。

 

 亡父言う、敵の太刀、待にしてあるに、拍子を分別して、ヤッと声をかけて、その色を見て、色に随いて勝つなりと書くもあり。

 

 父言う、敵表裏に付け、切り出すをよく受けて、引き出し、それには随わずして勝つべし。我が手立て表裏をはたらかす心持ち専なり。

 

 また言う、色に就くとは、表裏、仕掛け、切りかけ、はたらきかけなり。これに敵の心うつるところをもって、色に就くなりと言うなり。

 

 また言う、色に就き色に随う心持ち習いは、敵切りかければ、すなわち活人剣にて勝ち、動かざる者は三寸へ切りかけて随うべし。仕掛けにても動かざるはそのまま勝つ心持ちなりとも書す。

 

 また言う、色に就き色に随うこと、太刀の構え、三十余り、いずれも序の心持ちなり。序を切りかけて随うべし。

 小太刀一尺五寸のはずし、三十余りの構えに付けて、それぞれにはずす心持ちありと書すもあり。

月之抄 三拍子之事

 老父言う、勝つところの拍子は、越す拍子、合わさる拍子、付ける拍子、この三つなり。この三つの外れるは相太刀なり。また言う、合う拍子、付ける拍子、越す拍子とも書せる亡父の目録あり。

 

 老父言う、付ける拍子のこと、乗る心持あり。当たる拍子のこと、付けたり合う心持ありと書すもあり。

 

 またに言う、三拍子の三つは、我が身へ当たらざるところにては越す拍子の心持あり。当たる当たらぬという境にて付ける拍子なり。心を付けるなり。逢拍子は、付ける拍子付けて使うべし。打ちするも、逢拍子というなりともあり。

月之抄 三箇之事

 老父言う、敵の太刀先向きよう、三見と見て、その三見に仕掛け、三箇なりと云々。また言う、右の三つに、仕掛けられ付けかけ、相構えにて打つことを三箇と言う。

 

 鑓前に同じく、上段、中断、いずれも同じ事なりと言われしこともあり。

 

 また言う、太刀の構えのこと、これ晴眼なり。これに越すことなし。他流にこれを用いるもあれども、使いようの心持に相違あるものなり。

 

 鑓、長太刀同じ事あるものなり。構えには上段・中断・下段、鑓先も三つなり。この外はならざるなり。この三つの掛かりは相構えよし。惣別太刀・長太刀いづれにても、構えを用いるときは、相構えよし。相鑓の時は、上段には中断、下段には上段、中断には下段、この心得を用いるべし。

 

 また言う、三箇三つの仕掛け、敵の太刀先、向こうにあらば、付けよ。後ろにあらば一拍子なり。出るところなり。拍子をもって動くならば、その動きの拍子を受け、掛け、上げ下げ二つに乗りて、勝つ心持を思うべし。三見と見るにより、三箇の仕掛けあるなり。

 

月之抄 三見之事、二見之事

三見之事

 

 老父言う、太刀先三つ見ようあり。構えを見るなり。敵の太刀先前にあるか、後ろにあるか、動か、三つを見分ける心持なり。三つを見分けて種々の仕掛けもあるによりこれを専とするなり。三つを見るにより三見なり。

 

 亡父の目録には三様なり。太刀先、こぶし、身、なりと書せるあり。また言う、敵の志を見るよりも、三つを考えるべし。動・懸・待と心得るべし。動はすわらぬ心を思うべし。

 

 

 

二見之事

 

 老父言う、敵の懸待二つに見ることを言うなり。また言う、惣別、仕掛けざる以前の心持専なり。立ち会う時まず三見と二見と心得るべし。

 

 また言う、かしら書の目録に、敵の構えを二つに見ること、付けたり、太刀先前にあるか、後ろにあるか、見分けるべしと書すもあり。