月之抄 思無邪之身之事
思無邪之身之事*1
歌に
世の中の道を習わじすぐに行け 入り江小島に船寄せずとも
老父言う、邪なからんことを思え、身を直(すぐ)に歪まざるを用い、足の踏みよう八文字・一文字この二つなり。敵の方へ身なりすぐにせんためなり。鑓(やり)・長刀(なぎなた)・太刀諸道具ともにこの心同じ事なり。身の位思わずして道具に関われば、身を忘るるものなり。身をさえ知れば、いずれの諸道具も用に立つものなり。身の程を知りて道具を持てば、そのまま掛かりても当たらぬものなり*2。
また言う、思無邪は、五箇の身の真の位なりと云々、身のすぐみち*3の心持にて、物を持てばそのまま掛かりても当たらぬなり。道具我が身の盾となる心持なり。構えをせんと思わば、何時も上中下ともに相構えを用いる、これ活人剣の心持なり。
また言う、思無邪すぐなる心なり。諸事、万端かくの如し、と書くもあり。*4