lancelot2017’s blog

柳生十兵衛の伝書「月之抄」を中心に上げていきます。

月之抄  思無邪之身之事

思無邪之身之事*1

 

 歌に

 世の中の道を習わじすぐに行け 入り江小島に船寄せずとも

 

 老父言う、邪なからんことを思え、身を直(すぐ)に歪まざるを用い、足の踏みよう八文字・一文字この二つなり。敵の方へ身なりすぐにせんためなり。鑓(やり)・長刀(なぎなた)・太刀諸道具ともにこの心同じ事なり。身の位思わずして道具に関われば、身を忘るるものなり。身をさえ知れば、いずれの諸道具も用に立つものなり。身の程を知りて道具を持てば、そのまま掛かりても当たらぬものなり*2

 

 また言う、思無邪は、五箇の身の真の位なりと云々、身のすぐみち*3の心持にて、物を持てばそのまま掛かりても当たらぬなり。道具我が身の盾となる心持なり。構えをせんと思わば、何時も上中下ともに相構えを用いる、これ活人剣の心持なり。

 

 また言う、思無邪すぐなる心なり。諸事、万端かくの如し、と書くもあり。*4

 

 

*1:宮本武蔵五輪書」地の巻「兵法九箇条」の第一条にも『よこしまになき事をおもふ所』とある。

*2:これは「敵の攻撃が自分に当たらない」という意味と思われる。

*3:「直道」と思われる。

*4:宮本武蔵五輪書」水の巻『兵法の道において心の持様は、常の心にかはる事なかれ。常にも、兵法の時にも、少もかはらずして、心を広く直にし、きつくひっぱらず、少もたるまず、心のかたよらぬやうに、心を直中に置て、心を静にゆるがせて、そのゆるぎの刹那も、ゆるぎやまぬやうに、能々吟味すべし』